古きから新しきへ:活字書体のリニューアルの理由とその方法

2015年11月4日、MonotypeはEric Gill Seriesをリリースしました。これは、Gill Sans® Nova、Joanna® Nova、Joanna® Sans Novaの3つのファミリーで75種以上のフォントを集成したコレクションです。Eric Gillの作品から派生したこのシリーズは、待望のウェイトと新デザインの追加により、ファミリーを更新、拡大し、調和をもたらしています。予期していたことではありましたが、この企画は書体デザインの過去、現在、未来をかつてない深さで探求する巨大なプロジェクトとなりました。

Monotypeの書体デザイナー大曲 都市は、Metro® Nova、Neue Haas Unica™などをはじめ、近年多数の主要な書体リニューアルデザインを手掛けており、その作業プロセスに関しては既に多くの経験を重ねています。

Gillなど、大曲が取り組むプロジェクトでは、どれも広範な研究と考察が必要とされますが、彼はあらゆるところにインスピレーションの源を求めています。Metro Novaのリニューアルの際には、William Addison DwigginsのMetroといったあまり広く知られていないバージョンをアイデアの起点としました。

「Metro Novaは、ドキュメンタリー映画『Linotype』のDoug Wilson監督からの依頼により制作しました。多くの人がMetroと思っているのは、実は2代目のMetro No. 2®で、のちにDwigginsが作った最初のデザインよりも広く知られることとなりました。Dougは、オリジナルのMetro No. 1®のデザインを要求しましたが、その時点ではまだデジタル化されていませんでした。」と大曲 都市は語ります。

「Metro No. 1は全く異なるデザインなのです。aやe、gの文字で違いがわかります。むしろGill Sansに近い感じです。オリジナルの形の方が、ずっとおもしろいですよ。」大曲 都市の手により、Dwigginsのクラシックな書体は息を吹き返し、モダンなファミリーに生まれ変わったのです。

Neue Haas Unicaも、要請によって異なるスケールでリニューアルされました。オリジナルのUnica®は、Team ’77によってデザインされ、Helvetica®、Univers®、Akzidenz Grotesk®のハイブリッドで、究極のsans-serif体の開発を試みたものでした。1980年に発表されましたが、法的な紛争の中で消失し、デジタル書体にならなかったことから、書体業界において伝説のような存在とされています。大曲 都市は、このフォントを蘇らせることが不可欠だと考えていました。「Unicaの依頼は途絶えることがなく、『どうして存在しないんだろう』と疑問に思っていました。だから、僕がやらねばならないと感じたんです。」

「何か新しいものを見つけると、僕はよくそれは面白いな、でもいいものなんだろうか、今の時代に受け入れられるだろうか、と自問します。」

時代を見据えて息長く

他の書体リニューアルでは、個人的な発見であったり、幸運な偶然で見つかる場合などがあります。Monotypeのアーカイブは膨大なマテリアルを所蔵するリサーチの場であり、大曲 都市曰く「驚きに満ちた」場所なのです。

「僕は何から何までリニューアルしたいわけではないんです。ほとんどの書体には、デジタル化して生き残ることのできなかったフォントがあります。1980年代、90年代に様々な会社が書体をデジタル化し始めた時、グリフセットはフォント1種につき256字に制限されていました。ですから、スワッシュ字形などのあまり重要でない文字や、場合によってはフォント全体が除外されることもありました。」と大曲 都市は語りました。

「書体のリニューアルの実施には、様々な理由があります。」と続けます。「何か新しいものを見つけると、僕はよくそれは面白いな、でもいいものなんだろうか、今の時代に受け入れられるだろうか、と自問します。時には、どこかおかしいという点を見つけることもあります。デザイナーの意図とずれていたり、オリジナルのマテリアルはもっと改善できたかもしれなかったり、以前はよかったれども、現在の品質基準には適合していないものなどです。」

書体に関わる人々にとって、現代のリニューアルは多くの実用的なメリットと新たなオプションをもたらします。かつての字体制作方法では制約があったために不一致が生じることもありましたが、新しいテクノロジーによって、書体の特性を失うことなく修正することが可能になりました。そして、新しく便利な機能も加わりました。Neue Haas Unicaは多言語対応であり、Joanna Sans Novaファミリーは、現代の需要に合わせスクリーン上の読み取り専用にデザインされています。

書体のリニューアルでは、大曲 都市は「ほとんどの場合」ウエイトの種類を増やしています。「書体ファミリーは、必ずしも一貫して拡張されるわけではなく、ごちゃごちゃになっていることがあります。古い書体では、例えばボールドイタリックなどは、ボールドがなかった時代に、お客様からの依頼で作成されたのかもしれません。不一致自体は必ずしも悪いことではありませんし、不一致があるがゆえに書体ファミリーに面白味が増す場合もあります。ウェイトの種類が増えるほど、選択肢が増え、視覚言語での価値が高まる一貫したシステムにもなります。」

「でも、書体によってはとうの昔にデジタル化してておくべきだったという場合もあります。アーカイブでGillのウェイトのディスプレイを見た人は、必ずそのウェイトを依頼します。どうしてもっと前にデジタル化しなかったのだろう、と僕は疑問に思います。これらのウエイトは、デジタル化を長い間待ち続けていたのです。一見すれば、当然デジタル化すべきだと頷けると思います。」

書体リニューアルのプロセス

書体をリニューアルする場合、元のマテリアルをスキャンしデジタル化しますが、適切なオリジナルの選択はたやすいことではありません。通常、各サイズに数種の原図があります。最小は約6ポイント、最大は約72ポイントです。大曲 都市は「意図されていたと思われる」ものを探すか、複数の原図を選んで作業を行います。

「僕はオリジナルの感覚を保持しようと努めています。必ずしもスケッチそのものではなく、書体の持つ感覚です。書体そのものをとらえることが、輪郭をとらえることよりもずっと大切です。書体を見ると、自分が記憶していたほど美しくないことがよくあります。書体の完璧なバージョンは、記憶の中にあるものです。書体のリニューアルは、それを視覚化するプロセスなのです。」

古いスケッチで作業していると、デジタルでは必要なくなった、今ではほとんど見られなくなったディテールが明るみに出ることがあります。Unicaは、もともと写植用に開発されたものです。すなわち、文字は小さなスパイクでデザインされており、視覚的な丸み付け効果を過補償し、意図した見かけになるように作られていました。このような変更はデジタルプロセスで必要な作業ですが、デザイナー自身が決定を下さなければならない場合もあります。一瞥しただけでは些細な、ほとんど気づかないような変更に見えても、急進的な変化と解釈されることがあります。

「個性は自分で表現しようと努力するものではなく、自分で抑制することができないものです。」

「僕は、オリジナルの書体、そのデザイナーが今ならこのように制作しただろうというデザインに誠実であろうと思います。。確かに、オリジナルに自分の個性を積極的に入れようとするデザイナーもいます。僕は極力それを避けるようにしていますが、いくら心がけていても、いつの間にか自分の色は出てしまうもので、その書体の一部は自分のものになってしまいます。個性は自分で表現しようと努力するものではなく、自分で抑制することができないものです。完璧な書体のビジョンはデザイナーによって異なりますから、同じ書体のリニューアルでもみんな違ったものになります。だからこそ個人的な思い入れが深く、面白いのです。」

その点を踏まえると、Unicaのように崇敬されている書体の作業には、重大な責任を感じませんでしたか。「非常に大きな責任で、チャレンジではありましたが、どの書体に取り組むときも僕のやり方はほとんど変わりません。線を描いて、スペースを取り、普段より気をつけて書き直しをしましたが。」と、大曲 都市は笑いながら語りました。

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