デジタルトランスフォーメーションの加速が、顧客のブランドに対する期待をどう変えたか.

過去10年間、デジタルトランスフォーメーションはクリエイターに劇的な影響を与えてきました。私たちは皆、ブランドが販売からストーリーテリングへとシフトするのを目撃してきました。そして、その物語を伝えるのはクリエイターたちの役割です。
かつて、マーケティングは印刷媒体が中心でした。しかし現在、そのストーリーはデジタルから始まります。企業の89%がすでにデジタルファーストのビジネス戦略を採用している、または導入を検討しており、91% の企業が何らかのデジタル施策に取り組んでいます。
ブランドマーケティングのこれまでの変遷を物語のように捉えると、きっかけとなったのはテクノロジーの台頭でした。しかし、すべてが本格的に変わったのは COVID-19パンデミックが起きた瞬間です。新たなソーシャルディスタンスや外出自粛が求められたことで、オンラインストアやWebサイトへの需要を生み出しました。これにより、イノベーションと創造性の新たな機会が生まれた一方で、いくつかの課題も浮かび上がりました。
パンデミック後の世界において、ブランドに求められる主な課題は以下の通りです:
デジタルでも、ブランドに人間らしさを.
パンデミックを経て、顧客はブランドのデザイン、価値観、理念に対してより意識的になりました。その結果、ブランドはデジタル上でその存在意義を明確に示すという新たな課題に直面しています。幸いなことに、デザイナーはその課題に応える力を持っています。最新のデジタルトレンドを活かして創造力を発揮する中で、フォントはブランディングプロジェクトにおける重要な要素として注目されています。ブランド価値観と理念に合ったフォントを選択することは、顧客がブランドを認識し、つながりを築くのに役立ちます。
いつも“つながる”姿勢を持つこと.
顧客はより多くのコミュニケーションを期待しています。調査によると、マーケティングリーダーに最も期待されているのは「親切さ(helpfulness)」です。顧客はブランドが迅速に対応し、デジタル上でフィードバックを受け取れる場を提供することを期待しています。ヘルプデスクやホットラインなど、顧客はブランドと双方向の対話ができる場を求めているのです。これらのニーズに応えるため、ブランドは常に応答可能な状態を維持する課題に直面しています。ブランドのデザイン要素を選択する際は、フォントもそれに役立つものを選ぶようにしましょう。視認性が高く、読みやすいフォントを選ぶことで、顧客とのスムーズなコミュニケーションが可能になります。また、デジタル施策のためのデザインは、印刷物に比べて更新が迅速に行えるという利点があります。
グローバルにもローカルにも届ける.
デジタル化を進めるブランドが増える中で、ブランドマーケティングのターゲットはこれまで以上にグローバル化しています。これにより、デジタルマーケターは多様な文化や言語に対応し、グローバル市場にアプローチする必要があります。世界中のユーザーに伝わるメッセージを届けるためには、メッセージを市場に合わせて最適化することが重要です。ブランドの理念や価値観を普遍的な形で伝えるため、グローバルな規模で機能するフォントを使用することが推奨されます。Webサイトにミッションステートメントを掲載する際は、Webデザインとの整合性も考慮する必要があります。多言語に対応し、国や文化を問わず伝わるフォントを選択することが重要です。信じられないかもしれませんが、ウェブデザインの95%はタイポグラフィとも言われています。研究によると、ユーザーがブランドの第一印象を持つまでにかかる時間は、50ミリ秒未満だという調査結果もあるのです。
継続的な改善とアップデート.
もう一つの課題は、常に変化し続ける顧客の期待に応え続けることです。デジタル時代においては、新しい技術が開発されるたびに状況が変化し、ブランドは最新のトレンドへの対応力が求められています。市場の変化に適応するため、企業はSNSコンサルタントを起用したり、競争相手に追いつくための新しい技術を習得する必要があるかもしれません。例えば、多くのブランドはWebサイトと連動したモバイルアプリを展開しています。成人のおよそ85%が、企業のモバイルサイトはデスクトップサイトと同等かそれ以上の品質であるべきだと考えており、その期待に応えるため、モバイルアプリの導入が進んでいます。ソフトウェアのアップデートに合わせて、アプリの機能性を維持するためのメンテナンスも欠かせません。これらの継続的な改善に対応することで、ブランドは市場で競争力を維持することができるのです。
信頼を築き、ファンを育てる.
デジタル時代において、信頼の構築は顧客基盤を築く上で重要な役割を果たします。Edelmanの信頼度調査によると、58%の人が、ブランドの信念や価値観に基づいて購入したり、支持したりする傾向があります。ブランドは、長期的な顧客体験を創造するために、顧客との間に信頼や共感を育てていく必要があります。その際、デザイン要素に焦点を当てることで、一貫したブランドの声を形づくり、信頼を築くことができます。
プラットフォームをまたいで一貫したフォントを選択することは、最初の信頼感を育むのに役立ちます。顧客はブランドの書体に気づき、ブランドそのものと結びつけて認識するようになります。例えば、 Verizonのタイポグラフィを目にした顧客は、アプリやWebサイトを閲覧する際、チャネルを問わず一貫したデザインでブランドを認識できます。
記憶に残る存在であること.
アメリカで暮らす人は、1日あたり約4,000から10,000件の広告にさらされているといわれています。このような中で、ブランドサイト、アプリ、SNSには、顧客がブランドを記憶に残すための独自の要素が必要です。例えばPatagoniaは、Webサイトの1ページをストーリーの共有のために費やしています。このブランドは、コアミッションと価値観を深く印象づけるために、物語性のあるコンテンツを採用しています。彼らのストーリーを確認すると、ブランドに合ったキュレーションされたフォントを使用し、パーソナルな印象を加えている点にも気づくでしょう。ブランディングを通じてポジティブな体験を創造し、顧客がブランドに触れて感じることができた良い時間を記憶に残すことが重要です。
アクセシビリティの確保.
最後に重要なのが、ブランドはすべてのユーザーにとってアクセスしやすいものでなければならないということです。特に、モバイルに最適化されていないサイトでは、ユーザーがタスクを放棄する可能性が5倍にもなるという調査結果があります。つまり、Webサイトはパソコンでもスマートフォンでも、両方で最適に機能する必要があります。文字は、どちらの環境でも読みやすいフォントサイズで表示され、または拡大表示のオプションが用意されていることが求められます。
アメリカ国内だけでも、成人人口のうち3,220万人が視力障害を抱えているとされており、ブランドのWebサイトがADA(障害を持つアメリカ人法)に準拠しているかどうかは重要です。スクリーンリーダーとの互換性を確保し、すべてのユーザーに対応する必要があります。ADAアクセシビリティの指針となる4つの原則があります。Webサイトは「知覚可能(Perceivable)」「操作可能(Operable)」「理解可能(Understandable)」「堅牢(Robust)」でなければなりません。顧客はそれぞれ異なるニーズを持っていますが、いくつかの重要な配慮すべき事項があります。フォントサイズ、背景と文字のコントラスト、フォントの色、スクリーンリーダーでの読みやすさなどを考慮してください。また、ライブテキスト(コードで記述されたテキスト)を使用することで、支援技術との互換性を高めることもできます。WCAG 2.0ガイドライン(Web Content Accessibility Guidelines)を確認し、アクセシビリティ基準を満たしているかを確認してください。

書体の未来.
変化は避けられない——誰もが認めざるを得ない事実です。デジタル技術が進化する中、ブランドは高まる消費者の期待に応えるために進化する必要があります。COVID-19後のブランディングでは、デジタルを軸にグローバルな顧客にアプローチする必要があります。さらに顧客はブランドに人間味を求めています——社会的な信念を掲げる姿勢や、顔が見えるブランドであることなどです。
変化に対応するのは簡単ではありませんが、デジタルの世界ではフォントサイズ、コントラスト、色彩といったデザイン要素を通じて、学び、成長し、ブランドを革新するチャンスが豊富にあります。
顧客との関係を維持するため、ブランドマーケティングは革新的なものでなければなりません。ブランドは記憶に残りやすく、アクセスしやすく、信頼を築き、いつでもつながれる存在でなければなりません。デザインの観点から言えば、これはブランドビジョンを維持するためにデザインを活用できるエキサイティングな機会を生み出します。
中でもフォントは良質なユーザー体験に不可欠な役割を果たします。ブランドの核となる価値観とミッションを定義したら、書体を活かすことで長期的な顧客との関係構築が可能です。例えば、ブランドの雰囲気に合ったフォントの選択や、顧客の感情に響くビジュアルの活用が含まれます。ブランドの目的が何であれ、書体は顧客との関係を築き、維持するうえで欠かせない要素なのです。