この時代にデザインと創造性が果たす役割.

最大の課題は、かつての日常にどう戻るかではなく、私たちが思い描いていた未来のビジョンをどう手放すか、ということかもしれません。

COVID-19は、私たちの働き方や暮らし方を目の前で急激に変えました。この危機には明確な「以前」と「以後」が存在し、「以前」は急速に過去のものとなりつつあり、「以後」の世界は依然として不確実性に包まれています。

やがてこの未曾有の状況を抜け出したとき、社会がどれほど変わっているかは誰にもわかりません。ロックダウンの中で人々が身につけた新たな習慣は、そのまま続くのでしょうか? ブランドは、これから生まれる新しい機会をどのように見つけ出し、形にしていけばよいのでしょうか? あなたのチームが成功し、安全を得るために何が必要でしょうか?

おそらく最大の課題は、かつての日常を取り戻す方法を見つけることではなく、「本来こうなるはずだった」と思い描いていた未来のビジョンを、どう手放すかにあるのかもしれません。未来に何が起こるかを予測することはできませんが、備えることはできます。ここから始めましょう。

必然的な進化が加速する.

モバイルアプリ、EC、ストリーミングサービスといったデジタル領域が一般に普及した現在でも、多くのブランドはDX(デジタルトランスフォーメーション)を漸進的に進めてきました。彼らは「未来はデジタルになる」と認識しているものの、その変化の速度やオンライン領域への投資価値については、顧客の動向に委ねてきたのです。

その「未来」は突如として「現在」になりました。COVID-19は避けられない変化を一気に加速させたのです。ロックダウンによって誰もがオンラインに移行せざるを得なくなり、それは数値にも表れています。2020年、アメリカの小売業者のオンライン収益は前年比68%増加しました。ストリーミングの消費は85%増加。ロックダウン初週にはオンラインゲームの利用が75%も増加しました。

「モバイルアプリ、EC、ストリーミングサービス、その他のデジタル領域が一般に普及しているにもかかわらず、多くのブランドはDXに対して漸進的に取り組んでいます」

この変化に直面するブランドにとって、その課題はあまりに大きく、圧倒されるように感じられるかもしれません。より良い状況が訪れるまで、現状をしのぐ方法があればと考えているかもしれません。しかし、そうした良い状況がいつやってくるのか、またそれがどのようなものになるのかは誰にもわかりません。だからこそ、より大きな視点で考えてみる価値があります。

frog designが2020年に発表した「Disruptor Playbook」ではこう述べています。「今日ほど、『体験=ブランド』であることが明確になった時代はありません。現在の医療危機による新たな制約の中で、体験を提供し続けることができなかったブランドは、消費者の記憶から姿を消していきます。一方で、新しく創造的な方法で存在感を示すことができたブランドは、そのカテゴリーにおける他のブランドに対する顧客の期待を再定義することができるのです」

すべてのブランドは異なる状況にあり、正しい体験が何であるかを判断できるのは顧客だけです。それでも、共通して言えることがあります。それは、独自性と一貫性のあるビジュアルアイデンティティの重要性です。ブランドと顧客の関係において、継続性は信頼の大きな支えとなります。新しいサービスや体験、新製品を展開する際には、フォント、色彩、ビジュアルといった要素が顧客との重要な接点となり、ブランド体験としての一貫性を保ってくれます。それらはまた、多くのブランドがサービスをオンライン化する中で、他のブランドと差別化する要素としても役立ちます

「新しく創造的な方法で存在感を示すことができるブランドは、そのカテゴリーにおける顧客の期待そのものを再定義することができるのです」

frog design 2020 Disruptor Playbook.

例えば、ドライブスルー受け取りサービスを拡大するために新しいアプリを立ち上げる必要がある場合、そのビジュアルの一貫性が、顧客に対して十分な配慮と敬意を払ったことを示します。それは、これまでのブランド体験から期待されるのと同様の品質およびサービスが提供されるという安心感を顧客に与えます。また、ブランドの同一性——偽物ではないことを伝える役割も果たします。何が起こるかわからない時代において、信頼が持つ力は、想像以上に大きいのです。

人間らしさに向き合うこと.

COVID-19は、世界的な危機であると同時に、無数の個人の経験で構成された出来事でもあります。体験の内容は人それぞれですが、つながりの喪失は、私たち全員が共有してきたと言っても過言ではありません。ブランドはそのつながりを取り戻したり、友人や家族の代わりになることはできません。それでも、これは人間の危機であり、人間らしい対応が求められていることを忘れてはなりません。

ブランドとその顧客はある種のパートナーシップにあります。両者とも新しい、そして部分的には恒常的になり得る生活様式に適応しようとしています。顧客はトイレットペーパーや園芸用品、あるいは美味しい食事など、自分たちがいま必要としているものや欲しいものをどのように手に入れるかを模索しています。一方で、ブランドはそれらを顧客に届ける方法を考えつつ、可能な限り最高の体験を提供する方法を模索しています。

これは、共生的な適応と呼べるかもしれません。つまり、人と人が手を取り合い、試行錯誤を繰り返しながら、共に課題を解決していくプロセスです。例えば、小規模なビジネスでは、チーズ店が「リモート販売」を提供したり、美容師がZoomを通じて在宅のヘアカットをアドバイスしたりと、創意工夫に満ちた取り組みが行われています。さらには、太陽光パネルもオンラインで販売されています。

「最終的に、これは人間の危機であり、人間的な対応が求められています」

大手ブランドの場合、人間性の表現はもう少し間接的かもしれません。しかし、透明性があり、共感を込めたメッセージを伝えることは可能なはずです。重要なのは、タイムリーかつ、そのブランドに合ったコミュニケーションを届けること——それも、「良いニュース」に限らず、現実を含めて伝えることです。現実的に考えれば、あらゆるブランドがこの状況下で安定を模索し、失敗や課題を抱えることになるでしょう。Amazonでさえ、サプライチェーンの混乱、配送の遅延、取引量の急増に苦しんでいます。しかし、顧客は事情を理解しており、多くの場合、それを許容するでしょう。顧客との対話を絶やさないことで、危機を超えて信頼を築くことができます。

Jenna Gardenは「すべての危機には、組織がどのように成長し、どのように評価されるかを形作る機会が潜んでいます」とFast Companyの記事で述べています。

「危機が去れば、注目は薄れ、人々の関心は別の方向へ移っていくでしょう。それでも、その組織が危機の間にどのように対応したかは人々の記憶に残り、その記憶が組織の評価を未来にわたって形成することになるのです」

クリエイティブを活性化するために. 

このような変化に対応していくためには、クリエイティブチームが全力で取り組むことが不可欠です。しかし、組織全体が自宅でリモートワークを余儀なくされ、しかもその多くが休校中の子どもと在宅時間を共にしているような状況では、それを実現するのは簡単なことではありません。

リモートワークを推進していた企業にとっては、この急激な変化も比較的スムーズに乗り越えられたかもしれません。例えばMonotypeでは、以前から世界中でリモートワークをしているチームが存在しており、それらをつなぐクラウドベースの仕組みも導入済みでした。それでも、会社全体にそのシステムを拡大するには、時間とさまざまな問題の解決が必要でした。これまで移行を始めていなかった企業にとって、この変化が大きな衝撃だったことは想像に難くありません。

リモートワークはすべてのチームや部門に課題をもたらしますが、特に影響を受けやすいのはクリエイティブチームです。ブランドの一貫性を維持しながら迅速に対応していくためには、クリエイティブな協力が不可欠です。デザイナー同士がアイデアやラフ、フィードバック、フォントなどのブランド資産をリアルタイムで共有できる状態が必要です。

「ブランドが一貫性を保ちながら臨機応変に進化するためには、クリエイティブな協力が不可欠です」

コミュニケーションの側面は、ビデオ会議、Slack、メール、あるいは電話といった手段である程度補えます。しかし、アセットやファイルの共有は別の問題です。多くのブランドは、フォントのようなアセットをローカルサーバーや個々のチームメンバーのコンピュータに保存しており、リモートワークでそれにアクセスできないと大きな問題になります。こうした状況で役立つのが、Monotype Fontsのようなクラウドベースのアセット管理です。場所や時間を問わず、チームがアクセスできる共通プラットフォームと、クラウドベースのデザインツールを組み合わせることで、パンデミック下でも妨げられることなく、クリエイティブな業務を進めることが可能になります。

それだけではありません。これらの状況を一時的なものと考えるのではなく、むしろ中長期的な変革のチャンス(そしておそらく最良の機会)と捉えるべきです。多くの人が初めて自宅での仕事を経験していて、驚くべきことに、それを快適だと感じています。パンデミックによる不安や制限がある中でもなお、通勤の負担がなく、家族との時間が減らない働き方に魅力を感じている人は少なくありません。COVIDによって生じた他のすべての変化と同様に、これは一時的な対応というよりも、新しい、かつ恒常的な働き方と協働への変化だと捉えるべきでしょう。

 だからこそ、改めて考えたいのは、手放すことの重要性です。「以前の状態」は戻ってきません。そして、次に来るものが何かを、誰もまだ明確に語ることはできません。しかし、未来へ前進する道は存在しており、変化に対する不確実性を受け入れる覚悟があれば、ブランドは次の時代に向けた基盤を築くことができるのです。

デジタルファースト戦略への移行についてさらに詳しく知りたい方は、こちらのリソースをチェックしてください。

この時代にデザインと創造性が果たす役割.
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