ロゴが表現する企業の姿をカスタムフォントに

MitsuiandCoSans_小林さん

最近の流行を意識しつつも、企業ブランドの本質がロゴに表現されています。文字デザインがぶれることなく、基本に立ち戻ることができる井桁三のロゴの存在は非常に大きいです。

クリエイティブタイプディレクター小林章

多言語対応をした欧文カスタムフォントを制作
ロゴの「近代的で明るい表情」を文字からも発信

 

三井物産株式会社は、 2014年から企業理念をグローバルに浸透させる三井物産ブランド・プロジェクトに取り組んでいます。

トータル・プロデューサーとして、クリエイティブディレクター佐藤可士和氏を起用、300年以上の歴史を持つ三井の店章(丸に井桁三)を受け継ぐ三井物産のロゴを刷新し、より現代的でシャープなプロポーションとした現在のロゴが誕生しました。またロゴにおける社名表記を「MITSUI & CO.」に統一し、世界中に共通した三井物産の理念を発信しています。

Monotypeは、このロゴの印象からかけ離れず、しかも文章を組んで読みやすい欧文カスタムフォントの制作を手掛けました。 クリエイティブスタジオSAMURAIの佐藤可士和氏とMonotypeのクリエイティブタイプディレクターの小林章は、過去10年にわたりブランディングと欧文カスタムフォント制作に関わる仕事を重ねてきました。

佐藤可士和氏は、書体について次のように語ります。「人は大抵の場合、ロゴマークを見ているとき、企業メッセージが込められたイメージと意識して目に入れます。でも、例えばウェブサイトに書かれている情報を読むときはどうでしょうか。文字の形を意識しながら文章を読むということはほとんどないと思います。しかし、文章を読んでいるときでも、文字を通して企業とのコミュニケーションは行われているのです。その文字に一貫性がなかったとしたら、あるいは、どこにでもあるような個性のない文字が使われていたら、それは貴重なコミュニケーションの機会を失っていることとなります。企業コミュニケーションのツールとして重要なフォントのデザインを見直し、ブランドコミュニケーションの効率を上げていく必要があります」。

The Challenge(チャレンジ):

世界中でビジネス展開する上で、三井物産ではウェブサイト、会社案内、プレゼンテーション、名刺などさまざまな状況において欧文書体で表記されたコミュニケーションが求められます。三井物産のロゴがもつブランドメッセージを欧文書体からも同じように発信できるようにと、佐藤可士和氏とMonotypeのスタジオチームが協力し、欧文カスタムフォントの開発が始まりました。

Solution(ソリューション):

書体は個性を持っています。カスタマイズデザインを提案する際は、書体から受ける印象はキーワードを通して具体化し、開発の方向性を確認しあう作業から入ります。ここで重要となるのは、ロゴが表現する「近代的で明るい表情」を、文字に表していくことです。文字の幅や曲線、エックスハイト(小文字の高さ)を調節することで、文字の個性の引き出し方が異なってきます(図1)。

 

Monotypeカスタムフォント例

Option1)より普遍的で自然な印象。普段読み慣れている文字のバランスに近いため、読みやすさの点で有利

Option 2)現行のロゴから少しアレンジ。読み慣れた欧文のリズムとはちょっと違う、あえて引っ掛かりを持たせたインパクト重視のデザイン また、文字一つ一つの印象に加えて、文章という文字の塊になった時の印象も重要です。デザインチームは文章を読む人がどんなブランド体験をするのかを具体的に提案します。 ここでは、親しみやすさの中にもロゴのもつインパクト感を持ち合わせる Option 2-2が選ばれました(図2)。

大文字、数字に対して小文字が大きく設定してあるため、長い文章でも読みやすくなります。また、全体が明るくなり、親しみやすさに繋がります。さらに進んだ段階のサンプルでは、アルファベット、数字、&(アンパーサンド)などの記号を制作するための提案が出されました。ロゴのデザインがもつメッセージ性を踏襲しつつ、可読性を保つ文字のバリエーションを追求していきます。

小文字l(エル)のバリエーションについても丁寧な意識のすり合わせが行われました。バリエーションAのほうは縦棒のみ、バリエーションBのほうはフックのついたデザインが提示されましたが、ここで選ばれたのはバリエーションAでした(図3)。

「このフックのついたl(エル)は、トレンドとしてだんだん増えていることから試作に入れてみました。今回の書体では大文字 I(アイ)の上下にセリフがあるために混同される恐れは少ないということで、フックのついていないl(エル)が採用されました。最近の流行を意識しつつも、企業ブランドの本質がロゴに表現されています。文字デザインがぶれることなく、基本に立ち戻ることができる井桁三のロゴの存在は非常に大きいです。」と、クリエイティブ・タイプディレクターの小林章は述べます。

Monotypeカスタムフォント例

ロゴマークに使用されている&(アンパーサンド)の独自性も、バリエーション選考基準の参考となっています。例えば、大文字のQは、テール(尻尾)がOの部分を突き抜けているスタイルと突き抜けていないスタイルのバリエーションが提示されました。ここでもロゴにならい近代的な見え方のQが選ばれましたが、打ち合わせ中にご担当者さまから、視認性についてのご質問をいただきました。

「欧文でよく使われるFrutiger, Avenirなどの書体でも、突き抜けていないQが使用されていますので、実際に世にでている標識やパッケージなどの使用例をお見せし、納得をしていただきながら書体デザインを進めました。」とシニア・タイプデザイナーの土井遼太は述べます。

Outcome(結果):

完成したオリジナルの欧文書体はMitsui and Co Sansと名付けられました。近代的で明るい表情をもち、Regular、Italic、Bold、Bold Italicの4スタイルから構成されています。これにより、ウェブサイト、プレゼンテーション、名刺の文字組みに必要な実用的な書体が揃いました。イタリック体の使い方についてはいくつかルールがあり、語句の強調、外来語の表記、書籍や演劇または映画のタイトル、音楽や芸術作品名、船舶や機関車につけられた名前などを示すのに使われます。文字自体が表現するという意味では、世界とコミュニケーションする際に重要不可欠な要素です。

「三井物産では、現場の社員一人ひとりがブランドの体現者として顧客に、社会に、パートナーに、『ブランドのあるべき姿』を発信すると掲げています。彼らが日常的に触れている文字を通して、社員がブランド体験し、その体験をさらに社内そして社会のみなさまに発信できることはすばらしいことです。」と三井物産、広報部コーポレートブランディング室長の津田圭吾氏は述べます。

Mitsui and Co Sans が加わったことで視覚的表現が豊かになった三井物産ブランドは、これからも全世界に向けて発信し続けられるでしょう。

小林章

Akira Kobayashi

欧文書体の国際コンペティションで2度のグランプリを獲得して 2001 年よりドイツ在住。有名な書体デザイナーであるヘルマン・ツァップ氏やアドリアン・フルティガー氏との共同での書体開発のほか、Monotype日本デザインチームが開発して2017年に発表された同社初の日本語書体「たづがね角ゴシック」のディレクションを担当した。欧米、アジアを中心に講演やワークショップを行うほか、世界的なコンテストの審査員も務める。2022年にType Directors ClubのTDCメダルを受賞。

土井遼太

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東京藝術大学デザイン科を卒業後、英国レディング大学書体デザインコースで修士号を取得。2015年よりタイプデザイナーとしてMonotypeに在籍し、企業制定書体の開発や、書体選定をはじめとしたコンサルティングを行う。また、たづがね角ゴシックの制作メンバーとして、ファミリー展開やCJK(中日韓)言語に対応した字種拡張にも携わる。最近では、大学での講義や国際カンファレンスでの登壇を通じ、国内外に向けて書体についての発信をしている。