なぜ創造性にお金を払うべきなのか.

アーティストやクリエイターを尊重し、公平に接し、尊厳をもって扱うことは、あなたの価値観を世界に示すうえで大きな意味を持ちます。そして、そのリターンはいたって明快です。創造性を大切にする企業には、優れたクリエイターが集まりやすいのです。

アーティストは、自らの技術や作品に心と魂を注ぎ込んでいます。理想的な世界であれば、すべてのアーティストがその努力に見合う評価と報酬を得られるはずです。しかし現実には、多くのアーティストが自身の権利を守るために戦わなければなりません。この状況は何世紀にもわたって続いており、デジタル時代にに入ってからはさらに深刻さを増しています。

先月、アーティストの権利をめぐる問題が再び注目を集めました。コメディアンの Dave Chappelle は、自身の番組『Chappelle’s Show』のストリーミングをボイコットするようファンに呼びかけました。彼は、『Saturday Night Live』やInstagram といった自身のプラットフォームを通じて、ViacomCBSが番組のライセンスを利用して収益を得ているにもかかわらず、自分には報酬が支払われていないという事実を世間に訴えました。

これは、Chappelle がかつて署名した契約により法的には問題のない行為ですが、ブランドがアーティストの創造的なアイデアや作品を、不公正かつ搾取的な契約を通じて収益化しているという、根深い問題を浮き彫りにしています。Netflixが『Chappelle’s Show』のストリーミングを開始した後、Chappelleはこの件について声を上げ、それを受けてNetflixはアーティストへの敬意と、今後のコンテンツ開発における既存の契約を考慮し、番組の配信を停止するという決断を下しました。

デジタル時代の権利:複雑な著作権問題.

デジタル時代は、情報の自由な流れをもたらしました。創作プロセスは簡素化され、クリエイティビティの共有がかつてないほど容易になりました。その結果、あらゆるタイプのクリエイターの権利を理解し、尊重し、守ることの重要性がかつてないほど高まっています。

特に重要なのが、知的財産権(IP)のライセンスと著作者人格権をめぐる権利です。アーティストが創作した無形資産(フォント、画像、音楽など)は、知的財産法によって保護されています。アーティストはそれらの作品を、他の組織が特定の方法で使用することを許可するライセンスを提供できます。これらのライセンスは、関係する当事者、作品の使用方法、使用期間などを明確に定義しています。

アーティストはまた、1990年制定の視覚芸術家権利法Visual Artists Rights Act of 1990VARAにより、自分の作品に対する著作者人格権も有しています。これにより、作品がアーティストの許可なく、あるいは評判を損なうような形で修正、変更、歪曲されることを防ぐことができます。ただし、VARAは、電子出版物、ポスター、応用美術、雇用著作物などを明確に適用除外としています。VARAの適用を受けない著作物については、たとえば他者が自分の著作物を自作と偽るような場合、不正競争として商標法が適用される可能性があります。

これらはすべて、アーティストにとって基本的な権利ですが、さまざまなビジネス慣行によって常に脅かされており、その保護は非常に困難です。

クリエイターの権利を脅かす長年の問題のひとつが、不公正な契約慣行です。特に新人アーティストやマイノリティのアーティストが対象になりやすい傾向があります。こうした不公平な取り決めは、Dave Chappelle、 Megan Thee StallionKanye West といったアーティストたちが自身の体験を語ったことで、近年大きな注目を集めるようになりました。

アーティストたちは、駆け出しの頃に業界で成功したいという強い思いから、たとえ不利な条件でもチャンスを得るために契約を結びがちです。一方、レーベルや企業は、熱心で、ときに自暴自棄になりがちで、経済的にナイーブなアーティストを利用しようと、不公正かつ搾取的な契約を持ちかけることが少なくありません。

アーティストが権利を守るうえで直面するもうひとつの問題は、インターネット上の著作権侵害への無関心です。インターネットは何でもありの場所のように扱われる傾向があるため、作品のコピーや改変、あるいは単純な盗用が信じられないほど頻繁に起こっています (私たちを信じてください。フォントの世界では、こうしたことがあまりにもあまりにも日常茶飯事です)。 現在では、ほとんどあらゆる作品の海賊版、コピー版、または酷似したバージョンが簡単に見つかるようになりました。そして多くのデザイナーや制作者は必要なライセンスをきちんと取得しているか、作品が正しく使用されているかを確認するための基本的な調査を怠っています。その結果、アーティストは自分の作品が無断で使用され、報酬も支払われていない状況に気づくことになりますが、そうした侵害に対抗するための資金や法的手段を持たないことが多いのが現実です。

インターネットは何でもありの場所のように扱われる傾向があるため、作品のコピーや改変、あるいは単純な盗用が信じられないほど頻繁に起こっています。

デジタル時代において、アーティストの権利を保護することは非常に困難です。著作権侵害はしばしば国際的な問題となり、作品の権利やフェアユースに関わるさまざまな法律が絡むため、対策を講じることが難しくなります。不公平な契約に関しては、多くのアーティストがキャリア初期の段階で、どこに注意すべきか、何が公正なのかを理解していないことが原因です。契約書に使用される専門用語が難解であったり、成功のチャンスをつかむためには契約に署名する以外に選択肢がないと感じたりして、最終的にアーティストは、合法ではあるものの、公正な報酬を受けることができなくなる契約を結んでしまうことがあります。さらに、法的手続きにかかる費用や、変動する報酬体系の問題も加わり、こうした契約を後から再交渉するには多大なコストがかかることになります。

創造的な仕事の価値を重視するということ.

こうした不公平な慣行の多くは、業界の当たり前と見なされがちですが、それが正当化される理由にはなりません。企業が優れた人材や顧客との良好な関係を築きたいと考えるのであれば、創造的な仕事の価値を尊重することは、極めて賢明なビジネス判断と言えるでしょう。

ブランドを構築するには、クリエイティブチームの力が欠かせません。ブランドは競合他社と差別化を図るために、高品質で独創的な作品を求めていますし、そういうものを必要としてもいます。企業やブランドがクリエイティブチームの価値を明確に打ち出すことで、フォント、グラフィック、画像、音楽など、強力なブランドイメージを構築するために必要な優秀な才能を惹き付けることができます。クリエイティブチームを大切にし、その仕事を正当に評価・尊重することは、将来的なプロジェクトにおいてアーティストとの良好な関係を築くうえでも、大きな意味を持ちます。

企業が優れた人材や顧客との良好な関係を築きたいと考えるのであれば、創造的な仕事の価値を尊重することは、極めて賢明なビジネス判断と言えるでしょう

Netflixは、クリエイターを尊重する企業の代表例と言えるでしょう。Dave Chappelleが『Chappelle’s Show』について懸念を示した際、Netflixはその声に耳を傾け、すぐに番組をプラットフォームから削除しましたChappelleはすでに大きな成功を収めており、Netflixとも高額な契約を結んでいるため、同社が彼に誠実に対応したことは、ある意味で当然のこととも言えます。しかし、Chappelleほどの影響力を持たない何千人ものアーティストたちにも、同じように基本的な敬意が払われるべきです。

他の企業も、Netflixが共に仕事をするアーティストの声に耳を傾けるだけでなく、実際に行動し、支援を示した姿勢から学ぶべきでしょう。企業は、制作プロセスについて理解を深めたり、問題が起きたときにきちんと耳を傾けたり、必要なときにクリエイターを支えるなど、さまざまなかたちでクリエイターの味方になることができます。アーティストやクリエイターを尊重し、公平に接し、尊厳をもって扱うことは、あなたの価値観を世界に示すうえで大きな意味を持ちます。そして、そのリターンはいたって明快です。創造性を大切にする企業には、優れたクリエイターが集まりやすいのです。これは、企業にとってもクリエイターにとっても、まさに全員にとっての勝利と言えるでしょう。

Jessica Saxenaは、ビジネスとデザインの交差点に情熱を注ぐフリーランスライターです。執筆していないときは、本の世界に没頭しているか、身のまわりの世界を探検したりしていることが多いでしょう。

なぜ創造性にお金を払うべきなのか.
SE-1-3946
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