Shorai Sans のデザインを担当した3名によるトークセッション

トピック

Monotype の小林と土井が中村征宏氏をゲストスピーカーに迎え、Shorai Sans 制作メンバーでトークセッションを行いました。中村氏は、1970年代から本格的に書体デザインを始め、ナールやゴナなどの有名和文書体をデザイン。半世紀にわたり、書体を作り続けている第一人者です。

2022年2月にリリースされた Monotype の和文書体 Shorai Sans。Avenir Next にあわせて開発された、すっきりと読みやすい和文書体です。書体の発売を記念して、オンラインのトークイベントが開催されました。 

 

このトークイベントでは、書体制作にかかわった Monotype クリエイティブ・タイプディレクターの小林章、Monotype シニア・タイプデザイナーの土井遼太が登壇。ゲストスピーカーとして、Shorai Sans の見本帳デザインを担当した祖父江慎氏、Shorai Sans の書体デザインに携わった中村征宏氏を迎えて、2つのセッショントークが行われました。 

Shorai Sans の特徴とコンセプト

 定番の欧文書体を数多く所有している Monotype で和文書体を作るならば、欧文書体にあわせた和文書体を作ろうということになり、2017年に Neue Frutiger にあわせた和文書体、たづがね角ゴシック体を発表。それに続く和文書体として、Avenir Next にあわせた和文書体を開発することになりました。 

 

Avenir Next は、 Adrian Frutiger(アドリアン・フルティガー)氏が作った欧文書体 Avenir の改刻・字種拡張版で、ジオメトリックでありながらも、小文字aとoの読み間違いがないようデザインされ、可読性にも配慮されています。Avenir Next の10種類の太さにあわせて、和文書体も10種類の太さが作られました。 

 

「何も足さない素のかたち」というキャッチフレーズのとおり、文字の形は単純明快。幾何学的でありながら、人が手で書いたような雰囲気がある書体です。 

漢字の設計

極太のウェイトは、限界プラス1割の太さまで太くされており、漢字はたづがね角ゴシックの一番太いウェイトより太くなっています。 

 

文字を太くしようとすると線の太さが均等になりがちで、どこを太くしてどこを細くするかバランスが難しいと言います。例えば、「鳴」という漢字では、口へんの左側の縦棒と「鳥」の縦棒を思い切って太くすることで全体を太く見せています。 

 

また、「長」では一番上の横線と中央の長い横線を太くし、その間の線は細いままで、全体を太く表現。横線が並ぶ漢字では、このように太細の緩急をつけて処理しました。 

「徳」のぎょうにんべんは、1画目と2画目を離すと線の角が全部見えてしまうため、1画目と2画目をくっつけて、なるべく単純な形に。3画目もくっつけると真っ黒なかたまりになってしまうため、始筆部の右上を離しています。小林が日本で習っていた寄席文字でもこのような処理の仕方をするそうです。 

「糸」の斜め線の角度をどうするかも検討。小林が鉛筆でスケッチした「糸」の形は、中村氏が40年前にすでにいくつか考えていたものに近いことがわかりました。正解は一つではないので発想を膨らませて、いろいろ検討してみることが大切と小林は言います。 

漢字は文字数が多いため、最初にサンプルで何文字か作り、他の文字にも字種拡張していきました。画数が多い文字、少ない文字で10ウェイトを作り、他の文字に展開していけるかを検証。中村氏、小林、土井で方針を決め、その方針で他の文字を作ってもらうよう他のデザイナーに指示しました。 

最も細い Ultra Light と 最も太い Heavy の文字を並べて作り、太いウェイトと細いウェイトで整合性が取れているか、同じ書体に見えるかも検証。画数が非常に多い文字を太くする場合は、いかに極太の字に見せるかが難しいところ。例えば、「纛」(はたぼこ)という文字では、Monotype 香港のデザイナーが作った漢字に対して、小林が英語で指示を書き込み、修正点を伝えました。漢字の字種拡張では、日本のデザイナーだけでなく、中国、香港のデザイナーとコラボレーションしました。 

 

2019年、香港の Monotype に中村氏、小林、土井が出張し、現地のデザイナー、エンジニアとワークショップを実施。デザインができてからエンジニアに渡すのではなく、デザインの途中からエンジニアが加わって、一緒に制作。日本とドイツからもスタッフが参加し、国境を超えたコラボレーションになりました。 

 

書体開発の初期段階では、愛知県にある中村氏のアトリエに小林、土井、エンジニアが集まり、3日間ずつ10回、のべ30日間のワークショプを実施。2018年から書体の開発を始め、順調に進んでいましたが、2020年はコロナの影響で中村氏のアトリエでの共同作業が不可能に。以降、小林がドイツからオンラインで参加し、リモートで開発を進めることになりました。 

仮名の設計

Shorai Sans は、ジオメトリックでありながら、手書きの雰囲気も残しており、仮名では「き、お、す、な」にその特徴が表れています。 

 

「き」は、細いウェイトでは3画目がつながっていますが、太いウェイトでは離れています。太いウェイトで3画目をつながったままにすると、つながりの部分の線が細くなってしまうため、線の太さを保つためにそのような処理をしたと中村氏は言います。 

「な」は、2画目の終筆部を結びの部分にくっつけるか、くっつけないかを検討。また3画目を水平にするか、斜めにするかも検討しました。 

 

[世代も国境も超えたコラボレーション] 

 

1988年にスイスの Adrian Frutiger 氏が Avenir を設計。6ウェイトありましたが、太さの差があまりありませんでした。その後、2002〜04年に Frutiger 氏と小林が Avenir Next を制作。極細から極太まで太さに差をつけた6ウェイトのファミリー構成に変更されました。 

 

2020年に Avenir Next World を作る際に Avenir Next を10ウェイトに拡張。そして、その10ウェイトにあわせて、2022年に Shorai Sans が完成。つまり、最初の Avenir から Shorai Sans まで、国境を超えて34年かかったことになります。 

 

また、中村氏、小林、土井の3世代が関わったことにより、Shorai Sans の制作は世代も超えたコラボレーションになりました。 

Q & A

質問:開発の中で何が一番刺激になったか? 

中村氏:小林さんのフィードバックが厳密でした。40文字を完成させるのに5回のフィードバックがあり、自分がちゃんとやっていけるのかと思うくらい驚き、また刺激にもなりました。私が写植の書体を作っていた頃、修正は1回でしたから、5回というのは大変びっくりしました。 

 

質問:写植時代からデジタルフォントの時代への変化をどのように捉えているか? 

中村氏:大きな違いは、作る技法ですね。手書きか、マウスか。イメージした文字を作るという点ではどちらでも同じだと思います。 

小林:写植時代は、作った書体を写植で打って検証できるようになるまで、1か月以上かかっていましたが、今はデジタルですぐ直せるようになりました。写植時代は1書体作ってから違う太さの書体を作るのに1年以上かかっていたんです。今は、太いウェイトと細いウェイトの中間のウェイトを作る時にコンピュータを使えるようになったことが大きいです。一度に10ウェイトを発表するのは昔なら考えられませんでした。 

 

質問:線の「太い・細い」のバランスを他の人にどう伝えるのか? 

小林:私が指示を出しますが、1回ではうまく伝わりません。普通のゴシックと Shorai Sansがどう違うのかを理解してもらうまでに時間がかかりました。 

土井:自分は小林さんから指示を受ける側であり、香港のデザイナーに英語で指示を出す側でもあるので、小林さんの意図を正確に理解できていないと英語で指示ができません。中村さんや小林さんに何度も質問して自分の中で咀嚼してから指示を出していました。 

 

質問:よい書体の定義とは? 

中村氏:一概に「よい書体はこれです」と限定できません。使用目的によって、よい書体は変わります。目的にあわせて何種類か候補を出して、その目的にあったものがよい書体だと言えるのではないでしょうか。 

 

質問:今回のプロジェクトについて 

中村氏:この書体は一時的に使われるのではなく、50年、100年、長い時間、広く使われる書体になると思います。 

小林: Frutiger さんと Avenir Next を作っていた頃はそれにあう和文書体を作ることは考えてもいませんでした。その後、自分が憧れていた中村さんとこの書体を作ることができたのは、大きな物語のような気がします。長く使われる書体になってほしいです。 

Shorai Sans 特設サイト

Shorai Sans 見本帳はこちらからダウンロードいただけます。

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