Times Modernと現代

ビジネス上でテキストを印刷する場合、どのフォントを使用するかは非常に重大なことです。1932年のTimes New Roman®フォントの導入から現在のTimes Modernフォントに至るまで、The Times紙で使用するフォントは、The Times紙ブランドの重要かつ象徴的な要素でした。

書体を話題にするときは、細かいディテールに焦点が絞られる傾向がありますが、ここでは書体のライフサイクルについてお話しします。具体的には、この書体がどのようにして、ロンドンのThe Times紙にとって重要な役割を占めるようになったかについて説明します。The Timesは何十年にもわたり利用されてきた信頼のブランドフォントです。

The Timesの背景

この話は1930年に始まります。Stanley Morisonが、The Times紙の版元に対して新聞での書体の利用について厳しい批判を書いたことに端を発します。イギリスのMonotypeの書体アドバイザーであるMorisonは、さまざまな一般的Caslon™スタイルを使用していることで、The Timesの権威と名声が傷つけられていると警告しました。

Caslon™スタイルは、新聞の優れた印刷品質が生かされる書体ではなく、歴史を尊重しつつ、時代の最先端であることを誇る紙面ではやや古臭い印象を与えるフォントでした。

Morisonは、これらのスタイルに代わって、記事の内容を強調したり、視覚的にも編集面でもThe Timesの精神を伝えることができる書体の品質について説明しました。これは、The Timesの意識的なフォントブランディングの始まりでした。

The Timesにとって、歴史と現代的なものを融合するスタイルは、1930年代においても、今日においても変わりません。

The Timesは、1785年の創刊以来(当時の名称はThe Daily Universal Register)非常に長く親しまれている新聞です。The Timesは、1932年10月3日にイギリスの新聞において記録的な事柄を成し遂げたことを誇りに思っています。この日、Morisonの指示の下でMonotypeによって制作された斬新でモダンなバナーや新しいフォントファミリーにより、The Timesの古臭い外観が刷新されました。伝統を尊重すると同時に、斬新でモダンなスタイルを追求した結果、Times New Romanフォントが誕生しました。

しかし、多くの人々、特にイギリス国外の人々は、The Timesの新しい書体であることからTimes New Romanという名前が付いたという事実を知りません。

Times New Romanは、Times New RomanがThe Times紙の独占的財産であった短期間の間に成功を収めました。さらに、Monotypeが他の顧客やフォントメーカーにTimes New Romanを導入すると、その他の顧客やフォントメーカーにも大きな成功をもたらしました。

現在、Times New Romanフォントの普遍性は、多くのメディアにおいて、さまざまな形式で多用されており、The Timesそのものより大きいブランドであるといえます。

Alexander S. Lawson氏は、有名な自身の著書「Anatomy of a Typeface(書体の解剖学)」の中で、「過去70年間に開発されたすべての書体の中で、Times Romanは20世紀を象徴する書体として最も多用されてきたフォントの1つです。」と記しています。

The Timesの課題

年月とともに発展を続けるThe Timesでは、変化する制作方法やさまざまな状況に対応するために、フォントを定期的に更新する必要性があることを実感しています。このフォントファミリーの変更のすべての側面で、The Timesの「DNA」が継承されており、The Timesの特徴を忠実に再現する斬新さと権威が表現されています。

これは、2006年にNeville Brodyの研究スタジオが最初にデザインした最新のファミリー、Times Modernにも継承されています(現在はMonotypeによってデザインされたさまざまな新しいウェイトとスタイルを備えている)。Times Modernは、The Timesのもう1つの成功であることが証明されました。

そして、数か月かけてこの新しいデザインを使用し、このフォントがどのように機能するか、現在の課題は何かを確認してから、The TimesはMonotypeにこのファミリーの拡張を依頼しました。

それ以来、Monotypeは、オンラインとオフラインの読者のために印刷版と電子版での連続性を保つよう求められてきました。

The Timesのソリューション

MonotypeのRobin Nicholas、Patrick Giasson、Alice Savoieは、特にディスプレイへの表示のため、非常に幅広いウェイト、さらに、オリジナルのセットには含まれていなかったイタリック体の追加など、このファミリーで新しい方向性を模索しました。

Times Classicは2002年に導入されたファミリーで、依然として本文に使用されていますが、その方向性を決めるのは、より鮮明で最適化されたTimes Modernファミリーです。

この書体により、The TimesではThe Timesのブランドフォントを他のメディアでも利用できるようになりました。これまでの印刷版から移行しつつあるデジタル版は、サービス利用者が増加傾向にあるため、The TimesのiPad版では、書体があらためて重要な要素になっており、印刷紙の外観と内容は入念に管理されています。

The Timesではこれまでの労力を放棄し、読者にアプリでの新しい体験を理解してもらおうとは考えていません。書体の忠実性と品質を保証するために、iPadアプリでは、そのページのJPEGやPDF画像ではなく、実際のフォントを使用しています。テキストでは、文字の向きが垂直から水平に切り替わるときリフローされ、書体の鮮明さと読みやすさが保たれます。

アプリに独自のフォントを埋め込むことで、画面レンダリングでは他のiPadアプリと一貫しているように感じられますが、書体のディテールは紛れもなくThe Timesのものです。